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キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン
 キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン……
 
 土曜日の最後の授業の終了を告げるチャイムが全校に鳴り響く。この音による開放感というものは、万国共通であろう。
 
 教室内がその開放感で満たされているというのに、親友である遠野は隣の席で机に伏して熟睡している。御丁寧にも眼鏡は額の上辺りまでずらしてある。
 日直による「起立、礼、ありがとうございましたぁ」の声にも反応しない。
 こういうとき、一番後ろの席というのは、前の起立したやつの影になって教師から見えないため、得である。
 かく言う俺も、つい10分程前まで寝ていたのだが。
 
 さて、何はともあれ、こいつを起こさないことには始まらない。
「おいっ、遠野。遠野っ!いい加減起きろ!!」
後頭部を平手でパンパンと叩くのも忘れない。
「……うっ、ぐっ、がっ…ひ、翡翠…今日はまた乱暴な……」
…どうやら寝ぼけて翡翠ちゃんに起こされていると勘違いしているようだ。
 俺は憎しみを込めて平手を一層強く後頭部にお見舞いしてやった。
 
バンッ!!
ゴッ!!
 
 ……ちなみに、「ゴッ!!」というのは強く叩きすぎて遠野の額が机に直撃した音である。学校の机というのは、中に教科書を入れるために空洞になっている。そのため、このような小気味良い音が木霊するわけだ。
 
「いっ痛ぅぅぅ〜〜〜!!」
流石に起きたようである。遠野は眼鏡を元の位置に掛けなおすと、こちらに振り返る。
 その目にあらゆる劣情が秘められていたのは言うまでもないだろう。
「ようやく起きたか、遠野」
こういうときにこそ、自分は悪くないというような顔で平然とする必要がある。ここで慌てると、より一層相手が怒るので注意が必要だ。
「おかげさまでな…」
どうやら呆れてくれたようだ。
 さて、貴重な時間を潰している手も無い。というか、腹が減った。
「さて、遠野。そろそろお前の家に行こうか」
「お前、昼飯はどうするんだ?……まさか」
流石、我が親友。察してくれたようだ。
「お前の想像通りさ」
座っている遠野の頭をポンっと叩きつつ、爽やかに言う俺。もちろん、表情に迫力を込めるのを忘れてはならない。
「……わかったよ。それじゃぁ早いところ行くぞ。俺も腹が減ったからな」
遠野が鞄を持って席を立ちつつ、まるでこちらの迫力に負けたことを隠すようにしてソソクサと教室を出て行く。
「おっ、おい、待てよ」
俺も急いで鞄を持つと、遠野の後を追いかけて教室を出た。
 
 
 スタスタと早足で歩く遠野にようやく追いついたのは、生徒玄関で遠野が靴を履いているときだった。
 こういうちょっとしたときに、こいつの運動能力の高さを感じる。もしかしたら、こいつが全力で俺に喧嘩を挑んで来たら、俺では到底かなわないのではないだろうか。
 以前も感じていたことだが、最近はより強く、頻繁に感じる。
 
 しかし、以前のような”危うさ”みたいなものは無い。
 
「憑き物が落ちた」
というのは、つい先日ウチに遊びに来た遠野を見て姉貴が言った台詞だ。
 
 
 乾有彦の姉は昔から霊感が強く、そういったことには敏感なのだが、この言も”的を得て”いるのである。
 遠野志貴と命を分け合っていた遠野シキのために、以前まで志貴は貧血やシキとの精神感応に苦しめられていた。
 それによって、志貴には常にシキの影が付きまとい、それが有彦には”危うさ”となって見えていたのだ。
 
 しかし、そのシキも志貴自身が完全に殺した。肉体のみならず、その魂をも。これができたのも、志貴自身の「直死の魔眼」と、翡翠の「感応」の二つの特異能力のおかげである。
 確かに、シキを殺すことができたのは志貴の能力によるところが大きい。しかし、それも翡翠に精気を分け与えてもらったからこそできたのである。
 それが無ければ、志貴はシキを仕留める前に息絶えていたであろう。 
 
 
 内履きから外履きに履き替えながら、俺はマジマジと遠野の様子を見ていた。
「な、なんだよ。なんか俺の顔に付いてるのか?」
それに気づいた遠野が気持ち悪がる。
「いや、なに。やっぱり人間は健康第一だなぁと思ってな」
「お前みたいな不健康な生活を送っている人間に言われても嬉しくないよ」
目を笑わせながら、反撃の言葉を放つ遠野。
「何を言っていやがる。お前が健康な生活を送れるのも、翡翠ちゃんのおかげだろう」
こちらも負けじと返す。
「別に翡翠だけってわけじゃないさ。確かに、一番世話になっているのは翡翠だけどね」薄笑いをしながら遠野が言う。なんだか翡翠ちゃんとの中を自慢されているようで腹が立ったが、俺も大人だ。ここは見逃してやることにしよう。
「翡翠ちゃん以外に世話になっているっていうと、もう1人の使用人さんと秋葉ちゃんか?」
記憶を一つ一つ引っ張り出しながら、俺は聞いた。
「秋葉はともかく、そのもう1人の使用人さんの七夜さんには、本当に世話になっているよ。美味い料理を毎日食べられるのも、彼女のおかげだしね」
遠野は1人1人の顔を思い出しながら喋っているようだ。視線があらぬ方向に向いている。
「でもな―――」
遠野が言葉を続けようとして、周りの様子に気がついた。俺たちは他の生徒の邪魔になっているようだ。
 それもそうか。放課後すぐの生徒玄関の下駄箱で長話でもしていたら、邪魔に思わない方がオカシイってものだ。
「ま、それは道中話すよ」
俺に目配せしながら、言外に「早く行くぞ」と含ませる遠野。
「ああ、じゃぁ早いとこ行くか」
場の雰囲気をごまかすようにして、俺たち二人は校舎を出たのだった。
 
 
 
 校舎を出てから早足で一気に校門を出て、一息ついたところで遠野はさっきの続きを話し始めた。
「でもな、今日の朝、翡翠が七夜さんのことをあまり良く思ってないように感じる事件があったんだよ」
淡々と話してはいるが、心苦しさを感じずにはいられない。
「事件ねぇ……でもよぉ、確か翡翠ちゃんと七夜さんって……」
「うん。実の姉妹だよ」
俺の言葉を続きを言う遠野。「姉妹」と言った瞬間、一度だけこちらに目を向けた。その目は細いながらも、そこから悲しみみたいなものを十分見て取れた。
 
「「………」」
俺たちはそれからしばらくの間黙ったままだった。
 その間に、俺は遠野から聞いた翡翠ちゃんと七夜さんの状況を頭の中で咀嚼していた。
 
 遠野の屋敷に向かう坂道にさしかかったところで、俺はふと、疑問に思ったことを口にした。
「なぁ、遠野。そんな状況だってのに、なんで俺が来るのを認めたんだ?」
遠野は責任感の強いやつだ。例え自分に積が無くても、自分だけで解決しようとする。そんなこいつの性格を知っていたからこそ、俺は今までこいつが困っている時は、相談に乗る程度で抑えてきた。
 それなのに、今回ばかりは違うのだから、俺が疑問に思うのは当然だった。
「…俺だけじゃだめなんだよ。俺だけで事に当たろうとすれば、翡翠はどうしても俺を意識してもっと苦しんでしまう。だから、悪いとは思ったが……」
”俺を利用した”ということだろう。背に腹は替えられないといったところか。
「いや、いい。それ以上言わなくてもいいぞ、遠野。元々、翡翠ちゃんに俺はお礼がしたかったんだ。むしろ俺に頼ってくれて嬉しいくらいだ」
普段の俺からしてみれば、ものすご〜〜〜〜〜く臭い台詞ではあったが、嘘は無い。
 
「ありがとう、有彦」
「ああ、気にすんな」
 
 そうこうしている内に、遠野の屋敷に着いた。すると、遠野は俺よりも前に出て、金属製の重々しい門を開けた。
 
 ギギギ〜という金属的な音をたてながら門の片方が開く。遠野があまり大変そうに見えないことから、この門は意外と軽いようだとわかる。
 そのまま遠野が邸内に入っていくので、俺も付いていった。
 
「はぁ〜〜、何度見ても、立派な屋敷だよなぁ」
門を入ったところで、100m程先の屋敷が目に入る。その前方と左右には広々とした庭が広がり、なおかつ手入れが行き届いている。
「はは、ただの金食い虫だよ。この屋敷は」
確かに。これだけ立派な屋敷に、遠野を含めて4人しか住んでいないのだから、無駄な管理費がかさむのも当然か。
「でもよ、本当に凄いと思うのは、この屋敷の手入れのほとんどをたった二人の使用人がしているってことだぜ」
遠野に以前聞いた話では、特殊な技術を要するもの以外は、全て翡翠ちゃんと七夜さんの二人だけでやっているということだった。
「ああ、本当に感謝しているよ」
「特に翡翠ちゃんには、だろ?」
と、からかうと、遠野はスタスタと屋敷の方へと歩いていく。
「ああ〜、悪かった、悪かった!遠野ぉ〜〜〜!!」
 
そんなこんなで玄関に着き、中に入ると、
「おかえりなさいませ、志貴様。それに、いらっしゃいませ、有彦様」
翡翠ちゃんが出迎えてくれた。
「ああ、ただいま、翡翠」
「や、翡翠ちゃん。”おじゃまします”」
「何故そこで『おじゃまします』をやたら強調しているんだ?お前は…」
相変わらず、気がつかなくていいことまで気がつくやつだ。
「気にしなさんな。深い意味は無いよ」
実際、からかっただけである。それ以上の意味など無いのだ。
「…まぁいいか。とりあえず、俺の部屋に行って、鞄を置いてくるか」
「そうだな」
そう言って、俺たち二人は長い階段を昇って、2階にある遠野の部屋へと向かった。
 
 
「で、お前は翡翠の様子をどう感じた?」
遠野の部屋に入った途端、部屋の主が突然俺に聞いてきた。
「まあまあ、とりあえず、鞄くらい置かしてくれよ」
「ん、ああ…スマン」
そうして、鞄を二人して木製の机の上に乱雑に放り、俺はこれまた木製の椅子を反対の方向にして、背もたれに腕をかけるようにして座り、遠野はベッドに腰掛けた。
 
 それにしても、この屋敷の物は何から何まで上等な素材を使ってなおかつきちんとした作りの物ばかりだ。
 机、椅子、ベッド、果てはペン立てに至るまで、およそ考えられる最上の物ばかりである。
 
「さて、翡翠ちゃんの様子についてだったな?」
「ああ」
俺は話を再開させた。不謹慎だが、何かの秘密会議に出ているようで、楽しくなってきた。
「ん〜、俺は”普段の翡翠ちゃん”を知らないけど、以前に俺が来たときみたいな暖かさみたいなものが感じられなかったのは確かだな」
口調までなにやら真面目クンになっている。
「もうちょっと具体的に言ってもらえるか?」
遠野が身を乗り出すようにして聞いてくる。こいつも必死なのだ。いつもならからかうところだが、そうもしていられないようだ。
「う〜ん……この前来たとき、翡翠ちゃんはお前は当然として、俺にも心の底から出迎えの言葉を言っていた感じがしたんだよ。けど今回は、如何にも”仕事”っていう感じの接し方だったな。俺だけじゃなく、お前にまで、そうしていた」
遠野がなるほどと言う風ににして頷き、そのまま地面を見るようにして俯く。
「で、今度は俺からお前に質問があるんだ」
俺の言葉に反応して、遠野が顔を上げる。
「翡翠ちゃんがああいう風になるときって、どういう感情のときなんだ?」
こればかりは、長い間一緒に付き合っている者にしかわからないし、これを知らないことには、どのようにして翡翠ちゃんの七夜さんに対する想いを知り、改善するかなどできないのだ。
 
 遠野は窓の外を見やってしばらく考えた様子だったが、じきにこちらに顔を向けて話し始めた。
「そうだなぁ…翡翠があんな感じで”仕事に徹する”ときってのは、自分が悩んでいることを他人に気づかれないようにしようとするとき、だな。うん」
話しながら、自分の記憶に照らし合わせて納得する遠野。
「悩むっていうと、どんな風に悩んでいるんだ?」
これを知ることによって、翡翠ちゃんに対してどのように接しながら話を進めるかが決まる。
「う〜〜〜〜〜〜ん………悩んでいる自分に対して悩むっていうか……そう、要するに、翡翠自身が自分の行動とか感情とかを理解できていないことで悩んでいるんだよ。うん」
今度の「うん」はどうやら自分の翡翠についての考察を自分自身で感心したことによるもののようだ。
 …我が親友ながら、変なヤツだ。
「ふ〜んむ、つまり俺の役目は、俺の素晴らしい人生経験によって翡翠ちゃんが自分の気持ちを整理する手伝いをすることなわけだな?」
「ま、素晴らしいかどうかは知らないけど、俺が最初からするよりは良いだろう。その後は、俺が引き受ける。いや、やらせてくれ」
最後は男らしく自分でケジメをつける、か。こいつも大人になったもんだ。
 
「よっし、これで翡翠ちゃんの件は安心だな!」
「そうだな。上手くいってほしいもんだよ」
これからの段取りについて話し終えた俺たちは、「ふぅ〜」と、正に一息ついたのだった。
 
「私がどうかしましたか?」
 
「「!?」」
俺たちは固まった。いや、固まらざるをえなかった。部屋には何時の間にか翡翠ちゃんがいたのだから。
 
「ひ、翡翠…いつからそこにいたんだ?」
遠野が恐る恐る聞く。
「たった今です。昼食ができたから姉さんがお二人を呼んでくるようにと、私に言いましたので」
どうやら、話の内容は全然聞いてなかったようだ。
「有彦様もご昼食はまだですよね?姉さんがそのつもりで有彦様の分も作りましたから、志貴様とどうぞご一緒に来てください」
「あ、ありがとう。それじゃあすぐに遠野と行くよ」
用件を伝えると、翡翠ちゃんは颯爽と去っていった。
 
「「ふ〜〜〜〜」」
もう一度一息入れる俺たち。
「まあ、とにかく昼食を食べようぜ。有彦」
「ん、そうだな。腹も大分減ってきたからな」
 
 気分が落ち着いたところで、俺たちは腹も落ち着けることになったのだった。
 
 
 
 遠野の部屋を出て階段を下り、食堂に向かう途中の居間で、遠野の妹の秋葉ちゃんに会った。今学校から帰ってきたばかりなのだろう。格好は制服のままで、鞄も机の上に置いてあった。部屋の隅には翡翠ちゃんの姿もある。
 秋葉ちゃんは、癖なのだろうか、髪を手ですくうようにしてかきあげる。
 すると、こちらをいきなり睨んできた。
「ただいま、兄さん。それに有彦さん、こんにちは」
訂正。どうやら、遠野を睨んだようだ。その証拠に、俺の方に挨拶したときは、いつも通りの引き締まった表情をしていた。
「兄さん…どういうことですか?!御自分で解決するとか私に言っておいて、どうして有彦さんをお連れになんかなったんですか?!」
遠野に食って掛かるようにして話す秋葉ちゃん。
 ははぁ…わかった。どうせ遠野のことだから、勝手なこと言って秋葉ちゃんを巻き込まないようにしたんだろう。
 そんなことを言っておいて、俺なんかを連れてきたら、それは怒るよな。
「いや、秋葉。有彦を連れてきたのには理由があるんだよ。だから、すまないけど、俺の言ったように今は何も言わないでくれ…な?」
「でも兄さん…!!」
…マズイな。部屋の隅にいる翡翠ちゃんが不審がっている。ここで、二人の喧嘩の原因が翡翠ちゃん自身にあるなんて知れたら、収拾がつかなくなる。
「秋葉ちゃん。”今は”やめておいた方が良いと思うぞ」
翡翠ちゃんの方に視線を向けながら秋葉ちゃんを仲裁する。
 俺の視線の先にあるものに秋葉ちゃんも気づいたようだ。先程のように髪を整えると、大人しくなる。
「……わかりました。”今は”有彦さんに免じて見逃します。その代わり、兄さん!!」
「な、なんだよ。秋葉」
再び凄む秋葉ちゃん。しかし、先程のような食って掛かるような怒りはなく、どちらかというと、懇願の念が強く言葉に出ている。
「ちゃんと解決してくださいよ!!」
そう遠野に言った後、秋葉ちゃんはそのまま翡翠ちゃんのところへ行き「用事があるから食事は部屋で摂る」と言って、今から出て行った。
 
「あ〜あ、これは責任重大だな。遠野」
「わかってるさ。秋葉のためにも、七夜さんのためにも、なにより翡翠のためにも、絶対解決してみせるさ」そう言った遠野は、何かをやり遂げようとする信念が顔ににじみ出るようだった。
「一つ忘れてるぞ。遠野」
「なんだよ?」
怪訝そうな顔をして俺に聞いてくる遠野。こいつは、いつも他人のことばかり気にして、肝心のことを忘れてしまう。
「お前と翡翠ちゃんのために、だよ」
そう、こいつはいつも、本当にいつも、自分のことを二の次にしてしまう。それは、相手にしてみれば、自己犠牲にしか写らない。
 こういった面での”危うさ”は相変わらずなんだな、と思う。
「…!!うっ、うるせぇ。早いとこ食堂に行くぞ。七夜さんが待ちくたびれてる」
ふん、照れ隠しに怒鳴ったって、全然迫力なんて無いんだよ。それを知っていてもやる辺りが、遠野らしいんだがな。
「そうだな。俺もいい加減腹が減ったしな」
そう言うと、今度こそ二人で食堂に向かった。
 
 
 
 俺たちは食堂に入ると、七夜さんへの挨拶も程ほどに、席に着くとすぐに
「「いただきま〜す」」と言って、料理を食べ始めた。
 献立は遠野の和食党の影響だろうか、全体的に和食である。野菜の煮付けなどがあるところから、基本としては昨晩の残りものを出しているのだろうが、それを感じさせない程度に手をいれている。
 具体的に言うと、鍋の中のものをそのまま皿に盛ったものにチョットした添え物を付けたりしているのである。
 
 お客に料理を出すことに慣れている者でなくては、ここまで料理に気を配ることはできないだろう。
 流石は七夜さんである。
 
 二人共かなり腹が減っていた所為か、話もせずに黙々と食べた。
 
「「ごちそうさまでした〜」」
ほぼ二人同時に食べ終わる。それを見て七夜さんが、
「あらあら、本当に仲がよろしいですねぇ。翡翠ちゃんが妬いちゃいますよ」
と、からかってくる。
「ははは、まったくですよ」
俺はそんなことは全然気にしない。というか、七夜さんのように冗談を言う人も嫌いではない。
「なぁ、遠野…って、どうしたんだ?」
…どうやら遠野は俺のように冗談には取れなかったようだ。料理を食べ終わって一時は顔が緩んでいたのだが、今は、先程自室で見せていたような真剣な顔をしている。
 まぁ、確かに翡翠ちゃんのことで今は頭が一杯のこいつに、冗談に取れという方が無理か。
「おい、遠野」
俺の言葉にようやく遠野は反応した。
「あ?…ああ、本当にそうだね。翡翠に謝らないと」
冗談を冗談で返したつもりなのだろうが、とても冗談には聞こえないような表情と口調で言われては、冗談に聞こえやしない。
 
 七夜さんも冗談には取れなかったようだ。
「さて、志貴さんに有彦さん。食器を片付けたいので居間の方に行ってもらえますか?じきにお茶にしますから、お話でもして待っていてください」
そう言って、話題を転換する。
 ここら辺は、流石に年長者だなぁ、と思う。と言っても、俺たちと対して年齢は変わらないそうだが。なんと言うのか、雰囲気やこういったときの対処などから、どうしてもそう思ってしまう。
 
「ん、じゃぁそうしようか、有彦」
遠野がようやく重い腰を上げて、席を立った。
「そうだな。”ちょうどいい機会”だしな」
「??」
遠野は最初、なにが”ちょうどいい機会”なのかわからなかった様子だが、じきにわかったようだ。ゆっくりと頷いた。
 
「??」
七夜さんだけ、当然、最後まで意味がわからなかったのだが……。
 
 
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