「酒飲みと連れ」
 
 
ラインハルトの銀河統一が叶ってはや1年。
ハイネセンでの叛乱によって、その地位は落ちたものの、
ミッターマイヤーと諸将のとりなしによって、
ロイエンタールは未だに軍属となっていた。
 
その夜、ウォルフガング=ミッターマイヤーの妻、
エヴァンゼリンは、夕食の後始末を終え、朝出かける際に
「今日は”アイツ”と飲んでくるから、
スマンが先に食べていてくれ」
と言った夫の帰りを待っていた。
 
彼女にとって、平和を手に入れた銀河の中での幸とは、
何物にも代えがたい夫との日常であった。
 
しかし、その肝心の夫は最近、件の「アイツ」に掛かり切りで、
あまり夕食にも帰って来れないでいる。
 
彼女にしてみれば、そんな夫の、友人に対する優しさも、
複雑な気持ちの上にあるとはいえ、好意を持てるものであった。
 
 
ドンドンドンッ!!
「は〜い!」
ドアがノックされた。
夜10時。恐らく夫であろう。
エヴァは喜びを抑えつつ、玄関のドアを開けた。
 
「…ただいま」
「…お帰りなさい」
 
二人の挨拶が淡々としているのには、訳がある。
ミッターマイヤーの肩には、酔いつぶれたアイツ、
ロイエンタールが寝ながらもたれ掛かっていたのである。
 
「すまん、エヴァ。コイツ、いつものように酒に呑まれやがって…」
「で、エルフリーゼさんに面目が立たないだろうから、
ウチに泊まったということにしよう、というわけですのね?」
「…ああ」
「お優しいことですわね」
 
ロイエンタールとエルフリーゼの結婚は、
ミッターマイヤー夫妻が仲人となり、半ば強引に執り行った。
これは、ラインハルト亡き今、
オーベルシュタインなどの高級士官に対する牽制としても、
この結婚は進める必要があった。
 
結果、ロイエンタールは未だに、
ミッターマイヤーに、エルフリーゼに対する愚痴を酒の勢いで言い、
それを聞いている側は、
「なんだかんだ言って上手く行っているんだよな」
と納得している、という生活が続いているのである。
 
このようにして彼彼女達の日常は波風を立てつつも、
全体としては大海の海原のように平穏であり、
平和の中での余裕を
持て余しているようにも見えるのである。
 
そして、その余裕にいち早く順応したのが、男性陣ではなく女性陣であった。
つまり、ミッターマイヤーは尻に轢かれ始めているのである。
 
 
「…だめ、か?」
「…どうしようかしら?」
「……」
 
こうして、彼彼女達の平和な生活は続いていくのである…。

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