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パンチガ

 私服で出かけるのは久しぶりだったから。
 だから早苗は、
「ん、大丈夫かな」
 下着のラインが浮いてないか確認していた。
 後ろ手を使って服越しにブラやショーツの端々を引っ張り、凹凸が出ないか鏡と照らし合わせつつ見ていく。メイクよりもそういったことに時間が割かれており、微妙な年頃ではあった。
 食後の茶碗に注いだ緑茶を啜っていた神奈子は、かれこれ二十分近くも早苗の幾何学体操を眺めていた。
「ああ、うざったらしい。さっさと出かけたら?」
「いやあ、別に時間は決めてませんし」
「なら、どうやって待ち合わせするのさ」
「店に行けばどっちかどっちかが選んでるだろう、って」
 これから早苗は、服を買い足しに行くことになっている。
 別に一人だけで行っても構わないのだが、里にある店には不慣れである。勝手を知っている者と行った方が頼りになったし、何より、楽しそうだった。
「……そんなに時間がかかるもんかねえ」
「そりゃあ、晴れの一張羅があれば満足できるというものでもありませんから。私らみたいなのは」
 暗に神奈子のことを皮肉っているのは当人にもわかった。人間に配慮することが大事なことも、一応、わかっている。
 それでも、
「文句があるならはっきり言いなっての」
 むかつくのばかりはどうしようもなかった。
 とはいえ、これも大したことではない。どうせ神奈子みたいなのは何かあれば前にあったことなんてどうでもよくなってしまう。適度に悪態を吐いておかないと、ストレス発散の機会を失うだけだった。
「何でしたら、そちらの分も買ってきましょうか? 大体のサイズはわかりますから」
「えっ」
 茶碗の端にくっついて残ったご飯粒をいじっていた指先が止まった。
「えっ、って何ですか。えっ、って。何も服のセンスが悪いとか言っているんじゃないですよ。下着ぐらい、いくら神々しい方のものは汚れないからって、毎日変えた方が気持ちもすっきりするんじゃありませんか」
「いやあ、そりゃそうなんだけど。ほら、かえって調子が狂うかもしれないだろ?」
「なるほど」
「とりあえずあんたは、予定が狂う前にさっさと出な」
「はーい」
 やっと出かけるか、と神奈子が新しい茶を注いだとき、ああそうだと早苗が居間の口を出た所で振り返った。
「御山の宴会にいらっしゃるなら、お酒を用意しておきましたので、ちゃんと持っていってくださいね。いつも相伴に与ってばかりなんですから」
「あー、わかったわかった」
「洗い物も」
「やっとくやっとく」
「洗濯」
「お安い御用」
「風呂掃除」
「どこまでやらせる気だい!」
 怒ったときには、早苗はもう神社を飛び出していた。
 スワガーの狭い唾を手で摘み、ブラウスと合わせた青というより水色の強いスカートを飛行に伴う風にはためかせる。
「すっかり小慣れてきてるのは結構だけど、ねえ?」
「私に振るなって」
 いつの間にか食卓の下に潜んでいた諏訪子にも、適当に扱われた。
 角度の所為で、かろうじて目が帽子の陰から出ているような具合だった。
「……あんたも近頃、平気で出て来るよねえ」
「小慣れたの」
「で、何してんの?」
「いやあ、どんな下着を穿いてるのかなあ、なーんて……駄目かな?」
「駄目」
 早苗が神社の見える範囲から出るのと前後して、諏訪子は卓袱台ごと外に放り出されたのだった。


   ******


 やだ、この服ちょっと小さいわね。
 いえいえ奥さん、それは貴方が太ったからです。
 何とかならないかしら。

 そんな貴方にいざよいよい、十六夜の新古衣料店。

 いざよいよい、いざよいよい。

「アホだわ」
 霊夢は何度目かになる、店主がテープで流し続けているキャッチコピーの感想を漏らした。
 旧知の仲の咲夜が紅魔館から出る廃棄衣料を冬の間の稼ぎとして売るというから贔屓にしてやると返事したまでは良かったが、実際に店に足を運んだのは今日が二度目だった。なお、一度目は里の屋台で飲み過ぎて、朝方に軒先でぶっ倒れていただけだった。
 店自体は数少ない洋服専門店ということで繁盛しているらしい。あの挑戦的なキャッチコピーさえなければもっといけそうなのだが、下手に商売っ気を出したくないとのことだった。
 その肝心の店主は以前に霊夢がぶっ倒れていた辺りにチェアを出し、売り物の繕いをしていた。
 やろうと思えば一晩でやってしまえるようなことを今しているのは、やはり商売っ気の薄さが影響している。要は日向ぼっこを兼ねている。
 チェアに座って足を組み、メイド服のくせにやたらと短いスカートから出た生足は膝掛けで覆われていた。隣に添えられた小さなテーブルにはブランデーの瓶とロックグラスが置かれており、目にはグラサンをかけている。
 お婆ちゃんというよりはマフィアみたいな日向ぼっこの仕方だった。
 店頭に出された服を見ていた霊夢は慣れない服選びに飽き始め、咲夜に絡み始めた。
「あんた、よくそれで手に針を刺さないわね」
「これ、内側からだとそんなに暗くないのよ。日向だとこの方が目が疲れないしね。ほら」
 片手でグラサンを外し、霊夢の前に掲げてやる。彼女がレンズを覗き込んでみると、確かによく見えた。
「それにねえ」
 意味深に区切っておいて、咲夜は続けた。
「やっぱりお嬢様の僕たる私がこんな所で商売やってるなんて姿は、あまり見られない方が良いんじゃないか、って」
 これだけキャッチコピーやらメイド服やらで主張しておいて、それは無かった。
 しかもちゃっかり大通り沿いの家を借りている。
 案外、本気で知られたくないのだが、何事も完全にしたがる性格が祟っているのだろうか。
 それもそれで、アホだった。
「私からも聞いて良いかしら」
「ん」
 グラサンを返してやりつつ、相槌を打つ。咲夜はグラサンをずらしてかけると、霊夢の視線を誘った。
「あそこにいるの、貴方の待ち合わせの相手じゃないの」
 見れば大通りの端っこで、こちらを伺っている人物がいた。
 水色でそろえた上下に白いセーターを羽織り、ハットを被った女子だった。
「ああ、それっぽいわねえ。なるほど、私服だとああなるわけね」
「貴方ねえ、感心してないで自分のこと教えてあげなさいよ。貴方かどうかわからなくて声がかけられないんじゃなくって?」
「どうして?」
「貴方も私服でしょうが」
 すっかり本人は忘れていたが、今日はロングスカートにタートルネックという、普段の傍若無人っぷりからは連想し難い、「おや可愛いお嬢さん、私と食事でもどうですか」などと、どっかの気障な将校にでも誘われそうな具合だった。
 おまけに髪も下ろしている。気付けというのも可哀想な話だった。
 しかしそれについて一々説明しても、未だに霊夢はぴんとこない様子だった。
「仕方ないわねえ」
 咲夜は針と服をテーブルに置いて立ち上がると、ポケットに突っ込んであった仕立て用の紐を出した。
 そして一瞬の間を置いたときには、もう霊夢の後ろ髪が束ねられていた。
 これでようやく向こうも気付いたようで、とてとてと走り寄ってきた。
 早苗だ。彼女はハットを軽く持ち上げ、挨拶に代えた。
「お待たせしました」
「別に待ってもいなかったけどね」
 咲夜は、後は勝手にやんなさいよとグラサンの隙間から目線で伝え、作業に戻る。既に手品めいた素早さで紐は取られており、霊夢の髪は再び背中に垂れていた。
「玩具じゃないんだけど」
「まあまあ。それより早く選びましょう」
「あれ? 私もなんだ?」
「買うかどうかは好きにすれば良いですけど、選ぶのぐらい付き合いましょうよ」
 どうしようかと咲夜に目をやったが、彼女はグラスのブランデーを傾けただけで、何も言わなかった。
 このヤクザめ。
 心の中で毒を吐いて、霊夢は早苗に首肯した。

「うわ、凄い……外で閉店した店の衣装がほとんど揃ってますよ」
「ふうん、外は相変わらず大変そうね」
 霊夢としてはそれがわかる早苗も相当だった。この店の仕入れ元も、本当に紅魔館か疑わしくなってくる。
 店の奥に入ってからはこんな話ばかりで、早苗はただ物色しているようなものだった。
「こ、これは! 『(作者の配慮により店名削除)』のフロアチーフ用エプロンっ! なんてことかしら!」
 かなりのミーハーらしい。
 このままだと一向に選び出しそうになく、昼には掛け蕎麦でも胃に流し込んで酒を飲みに繰り出したい霊夢としては、上手くなかった。
 弾みを付けた方が良いかと、店の最奥へと早苗を引っ張っていく。彼女は足を引っかけそうになったが、目的の棚まで来ると踵を揃えた。
 下着の棚だ。流石にここら辺は咲夜も自重したようで、霊夢がざっと見た限りでは変な物は無かった。やたらと幼児用の棚が広いのが少し気になったが、個人の尊厳に関わりそうだったので徹底的に無視した。
「やっぱり、見えない所からキメないといけないわねえ」
「き、キメますか」
「キメるわねえ。ついでにさっさと決めちゃいたいわねえ」
「うわあ、意外と沢山ありますねー」
 大事な部分は全然聞いてなかった。素でやっているから可愛いものだが、これがわざとだったら霊夢は下着を早苗の頭に被せて往復びんたでもしていただろう。というか、しかけた。
 寸での所で下着を掴んだ手の動きを止め、生地を確認している風を装う。ただそれが、レース造りだったのがいけなかった。
「……お相手がいらっしゃるんですね」
「う、えっ?」
 良い具合に目を細めて、感慨深げに言われる。
「ああ、わかりますわかります。仕事柄、いないってことにしてるんですよね。お察ししますよ。大変ですよね、この商売」
「あ、うう、いや」
「良いなあ、私もそういう禁断の恋してみたいなあ」
 空気が不穏になったとき、
「禁断の恋ぃー?」
 グラサンがグラス片手にグラグラ湧いて出た。酔っているらしい。あるいは前が見えていないのか。どっちにしろタチが悪い。
 霊夢は手に持っていた下着を咲夜に手渡し、しっしと追い払った。
 それから、
「実はね、あの店主こそ、その禁断の恋の当事者なのよ」
 でまかせをぶっこいた。
「あんな怪しいグラサンとメイド服なんて格好をしているのも、去る大物と恋をしたがために、それを良しとしない一族郎党に命を狙われているからなのね」
「そ、そうだったんですか。ただの変な人じゃなかったんですね」
「そうなのよ。今も恋という言葉を聞いただけで迷い出てくるぐらいだわ。私の知り合いなんて恋恋連呼してるもんだから、あの店主にはゴキブリ同然に迷惑がられているわ」
「可哀想に……」
 頓珍漢なやり取りだったが、二人が打ち解けるだけの効果はあったらしい。
 それからの二人は、やれシルクは柔らか過ぎて寝られないだの、下着の流行り廃りはわかりづらくて困るだの、ブラウスは肌着か否かだの、そういった話題で下着選びに花を添えた。
 時折おかしな話題が挟まったため、調子も変な方向に向いたようだ。二人は気に入った下着と服を選んだ他に、赤と青の下着をそれぞれ買うことになった。
 それらを一々手に取って会計を済ませた咲夜は、氷を新しく入れ直したグラスを、また傾けた。
「そんな恥ずかしい下着を買う人、初めて見たわ」
「まあ、ネタにはなるでしょ」
「ネタで女やってるわけじゃないのよ!」
 ちょっと見ない内にタチの悪さがパワーアップしていた。じきにボムでも撃てそうだ。
 みすみす知人が粗相をしでかすのを見過ごすのは不憫で、霊夢は一緒に掛け蕎麦でも食いに行こうと誘ってみた。

 これが、失敗だった。

「あ、赤と青だってぇ!」
 信じ難いといった具合に叫ばれたが、霊夢らにしてみれば今の状況が信じ難かった。
 時代遅れの三度笠を腰に提げた男連中が、屋台を囲む形で騒いでいる。数は五人。それをまた更に囲む形で里の連中が見物しており、三度笠一味は新参の類らしかった。
 その新参が、
「何てこった! 兄貴、こりゃ見過ごせねえぜ!」
「おうよ太吉、赤と青だなんて聞いたら血が騒いでいけねえや。そうだろ喜介ぇ!」
「へへ、俺、おかしくなっちまいそうだよ……ヒヒヒ」
「ジミーもソレ思うネ」
「……南無阿弥陀仏」
 とか各々好き勝手に口にする。
 今、外人が混ざっていなかったか。いやまて、突っ込み所はそこか。そもそもこいつら何だっけ。
 霊夢は掛け蕎麦の屋台で落ち着いた所まで記憶を遡った。
 席に着いた早々、咲夜はたしかこう言った。
「赤と青のパンティー!」
 これだ。間違いない。あっという間に原因が判明して、霊夢は力が抜けそうになった。
 今時パンティーは無い。いやそうじゃない。そこじゃないだろ。
 人前で下着のこと口にするか? いやいや、そういう常識的な話でもない。そもそも期待してない。
 問題はやはり、
「諸君、俺は喧嘩が好きだ。喧嘩が大好きだ」
「出たー! 兄貴の必殺メロウ演説ぅ!」
「ひひ、うぜえ、ひひひ」
「テンプーレ、テンプーラ!」
「……食い過ぎ注意」
 こいつらだ。おかしい。明らかに、おかしい。
 おまけに演説まで始まっている。拳の握り方もわからない素人の歯を砕いたときは嬉しいとか、母親にまた喧嘩してとか言われたときはとてもとても哀しいとか、かなりズレたことを口走っている。こいつが頭らしいが、他の連中もときどき掛け声で呼応し、大道芸さながらになっていた。
「おうおう、見せ物じゃねえぜ!」
 見せ物である。そういう視線を群衆から返されて臍を曲げたらしく、頭領は「へっ」と鼻を手首で擦った。
「俺たちゃ!」
「三度の飯が大好きで!」
「仏の顔も三度まで!」
「普段は三度笠で商売シテル!」
「……旅の者」
 旅の者らしい。それに意外と地道な生活だ。最後の二人以外、かなりどうでもいい。外人より言語能力が劣るというのはどうなのだろう。
「それで、赤と青がどうしたのよ?」
「……うむ、それはだな」
「待て! 何故に俺っちを無視するんでえ!」
「あんた話が通じなさそうじゃない。大体どこの生まれだっての」
「へへっ、恥ずかしいこと聞くない。俺っちは故郷を捨てた男……だぜ?」
 頬を染められても困る。特に懐いているらしい太吉とかいうのが、わざわざ頭領が片足を乗せて格好付けられるように跪いている。
 咲夜はといえば何やら外人と外国語でペラペーラ喋っているし、早苗は屋台の親父の陰に隠れて、怯えていた。
「で、赤と青」
「うむ。それは我々のような喧嘩師が若い頃から使ってきた暗号なのだ。一種のすり込みのようなものだから、一度言われると変更が利かん」
「あんた、『……』を挟まなくても喋られるの?」
「……」
「ああ、ごめんごめん。気にしてるなら良い。うん」
 こけた頬には陰が深いが、僅かに赤みが差した。照れているらしい。エリマキトカゲみたいな恐ろしく凶悪な目付きをしているが、色々と苦労しているのだろう。
「具体的に、どういう暗号なわけ?」
「赤は喧嘩売ります。青は喧嘩買います。逆の場合もあるが、今回の場合、両方同時だったからな。売るも買うも無いから、とりあえずこうして絡んでみたのだ」
「はた迷惑な話ねえ」
「……男とは不器用なものなのだ」
 変にキャラを意識しない方が良いと思うのだが、本人が気に入っているようなので良しとした。
「正直、喧嘩したいの?」
「……宿命だ」
 さっきはすり込みとか言っていたのに、破格の出世だった。
 できれば私服を汚したくはないのだが、里の者達が見ている前で下手なこともできない。
 適当に弾幕をばらまいて逃げようか。
 そんなことを思案している間に、気付けば向こうは準備を整えようとしていた。
 ばらばらに行動していただけかと思っていた連中は、実は霊夢を囲める位置にそれぞれが移動するための演技だったらしい。半ば素でやっているのかもしれないが、これも喧嘩師の宿命だろうか。
「……ゆくぞ」
「おいこら左門! 俺の役取るない!」
「兄貴、俺を盾にしてくんなせえ」
「いひひひひ、イヒ、あさひかせーい!」
「エイドリアーン!」
 息はてんでばらばらだったが、呼吸は合っていた。適度にそれぞれの飛び出すタイミングをずらし、全方向から踊りかかってきた。
 まあ、霊夢にしてみればピンチではない。真上に飛べば勝手に顔をぶつけ合って終わりである。
 そう思って実際にそうしたのだが、三度笠一味は見事な連携を見せ、お互いをやり過ごした。
 長引くと里に迷惑がかかる。それは別に構わないのだが、掛け蕎麦のツケが利かなくなりそうなので、回避すべき事態ではあった。
 が、それより気になるものが視界に入った。
 一瞬、空の向こうがきらりと光った。それから間もなく、緑色の物体が高速で飛来した。
 三度笠一味が通り過ぎ、霊夢が立っていた場所。その物体はそこに落ちた。
 道のど真ん中に穴が空き、土煙が立ち上る。周囲の者は一様にげほげほと咳き込んだが、三度笠一味はお互いの顔を見合い、まさかまさかと口にした。
「その喧嘩、待ったあ!」
 飛来した物体は妖夢だった。彼女は土汚れ一つ無く、ぴんと背筋を伸ばし、天に掲げた手には緑色の札を手にしていた。
「げえっ! グリーンカード!」
 勝手に驚いている喧嘩師をさて置き、とりあえず霊夢は地面に下りた。そこにすかさず、左門が寄った。
「説明させていただく」
「あんたも難儀な性格ね。んで?」
「グリーンカードとはかつて進駐軍のMPが巡回時、我々のような喧嘩師の喧嘩を仲裁するためのカードとして使っていたのだ。それが転じて、今では喧嘩仲裁のための絶対的な効力を持つカードとなっている。これを出されると、我々は……」
「進駐軍とかMPって何?」
「……戦後は終わった」
「あっ、こら!」
 逃げた。
 かと思いきや、左門はわざわざ妖夢の前まで行って、仲間と一緒に土下座した。
 その妖夢は掲げた姿勢を微動だにさせず、審判としての役目を全うしていた。
 とても、輝かしい勇姿だった。


 戦後……もとい事後、三度笠一味は力尽きた。まさかこんな場所にまでグリーンカードがあるとは誰も思っていなかった。多分、他の誰も思っていなかった。というか知ったことじゃなかった。
 折角こんな幻想郷まで流れてきたというのに、これでは喧嘩の道は捨て去るしかなかった。
 そんな彼らに手を差し伸べたのはグラグラ女だった。咲夜だ。
 彼女はジミーと勝手に契約を結び、彼らの三度笠を編む技術を買ったのだった。
 そして、
「へい、らっしゃい!」
「兄貴、それじゃ八百屋ですぜ」
「いらっしゃいませ、本日も奥さんお綺麗で」
「喜介、スッカリ真人間になってるネ」
「……喜介だったのか、あれ」
 いざよいよいの掛け声で、売り子兼手工業をやっている。
 咲夜は、昼間は店先で酒を飲んで過ごし、夜は本来のメイド仕事と、生活をエンジョイしていた。
 霊夢は掛け蕎麦を無事にツケで食い切り、妖夢は閻魔に与えられたみょんな仕事をやり遂げた。
 自宅でもある神社に帰った早苗はどうしたか。
 神奈子にレースの下着を着けさせようと、悪戦苦闘していた。
「絶対似合いますって!」
「絶対嫌だ。絶対着ないかんね」
「ほらほらあ、目指せ禁断の恋っ、ですよー!」
「うひいー! 他人で目指すなあ!」
 女性の喧嘩に仲裁は利かない。やるか、やられるかだった。