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紅魔の屋敷はイッツパラダイス

吸いたい。吸い付きたい。

自分の歯に柔肌が触れたときのことを想像しただけで朝になっても眠れない。

いっそヒルにでもなれば、誰に気兼ねすることもなく吸い付けるだろう。その後にどうなろうと、そう、例え火を押し付けられようと、肉ごと剥ぎ取られようと、そんなことは取るに足らないことだ。

私ともあろうものがそれほどまでに形振りを構わなくなるとは、衝動というものは恐ろしい。

昔は意識せずともしていたことだ。だからこそ、意識するようになった今が、悩ましい。それと同時に、あの喜びがどれほど貴重で、どれほどに素晴らしい行為か、私は自覚している。

では、私は幸せだろうか。そんな疑問は意味が無い。幸せなんてものにすがるほど、私は誇りを失ってはいない。一々に幸せだの不幸せだのと喚き立てるのは人間ぐらいなものだ。それこそが不幸なことだとも気づかずに、日々の幸せ不幸せの辻褄を合わせ続ける。

「お嬢様、好き嫌いは御体に良くありませんよ」

咲夜はその点をよく理解しているが、融通が利かない。昼食(一般的な夜食を摂る時間帯のもの)を前にして食が進まない私に、あれやこれやと世話を焼く。体に悪いと云うのなら、本に目どころか顔を落としながら片手でひょいひょいと口へ食べ物を運んでいるパチェはどうだというのか。元から体が悪いから良いのかもしれない。

「たまには首筋から直に血を飲みたいの」
「なりません。お嬢様が下賤な者に齧り付くお姿を想像しただけで、私は頭がどうにかなってしまいそうです」
「下賤だから良いんじゃない。後腐れが無くって」
「後ろは腐るものです。前が腐っては一大事」

それまで黙っていたパチェがくくと笑い出した。私は何が面白いのかわからなかったが、パチェの笑いは止まらない。

ごほ。

げべ。

ぶは。

がは。

笑いと云うより死へのカウントダウンを刻むような声を上げ始めたところで、咲夜が時間を止めて運んで行った。どうやら弱っている気管に食べ物が詰まったらしい。今頃は突然に目の前に現れた瀕死の主人を相手に小悪魔が呆然としていることだろう。ぐふとは云わなかったから死ぬことは無いに違いない。

「ご苦労様」
「お言葉をいただくほどのことでは」
「さっきのって何が面白いの?」
「失言でした。食事の席で話すようなことではありません」
「ねぇ、何が?」
「ささ、お食事が冷めてしまいますよ」
「ねぇ、ねぇ、ねーえー」

咲夜のエプロンの裾を掴んで引っ張りながらねだってはいるが、彼女の心の堤防は決壊には至らずにいる。これは昨今に彼女が身につけた特技らしく、意識的に目の前の幸せを遠ざけることによってより自分の幸せを噛み絞めることができるとのことだ。

それはつまり、ゴムを引けば引くほど手を放したときの勢いが強くなるということなのだろうが、そうなったときの咲夜がどうなってしまうかまでは私も知らない。館内で漏れ聞いたところによれば、私がねだった翌日にはナイフを眉間に突き刺された門番が発見されたり、チャイルドなんたらをさせられたとかで寝不足気味のメイドが出るとのことだ。私にはわからないことが咲夜には多過ぎる。人間ならわかるのだろうか。

咲夜が私を無視して食器を片付け始める。私は相当に苛立っていたから、食卓を両手で叩いたのだった。椅子から降りていたため食卓には充分に背が届かなかったが、なんとか音は出た。それを見た咲夜は鼻血を噴出したが、気にしていられない。

「咲夜には吸血行為の尊さが理解できていないのよ!」
「とんでもない!」

こちらを上回る大声を出されたので、つい呆気に取られてしまった。なんということだ、私は咲夜を誤解していたのだろうか。鼻血を綺麗にふき取った咲夜を見て、そんなことすら考える。咲夜は胸を張って云い放った。

「鼻血を出す快感に勝るものはございません!」

鼻息と同時に再び盛大に鼻血が噴き出る。彼女の鼻にはポンプでも付いているのだろうか。そうとでも考えなければ、あれだけの出血で立っていられる道理が無いというものだが、それはそれで咲夜を信じられなくなりそうだ。私はふと自分が馬鹿らしい苦悶に陥っていることに気づいた。

そして私は咲夜の腹に回転頭突き、いわゆる人間魚雷をこころみたのだった。



さくやは PKじかんていしを こころみた!

レミリアの うんめいが じゃまをする

じかんは とまらない!


Smash!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


さくやは おとなしくなった



「咲夜、もう紅茶に血は入れなくて良いわ……」

その日以来、咲夜は鼻血を止めた。